【会長コラム】ATD Virtual Conferenceの参加体験から

ATDのVirtual Conferenceは、6月1〜5日の5日間、夜から次の日の午前に連日開催された。基調講演や、その他の注目されるセッション概要などは、既に共有会やブログなどで紹介されている。だから私は、同じようなコメントより、私自身が感じたこのカンファレンス体験の感想を述べてみよう。

毎年開催されるATD ICEが中止になるという知らせを受けたのが、4月8日のことだった。3月の下旬から、アメリカのコロナ状況が尋常でないことを心配していたので、やはり中止かと感じたがとても残念だった。
しかしその後、しばらくしてATDはこのVirtual Conference開催へと切り替えてきたのである。その迅速さ、アジリエンスの高さをとてもすごいと感じた。
満足にオフィスで仕事ができない状況の中だからこそ、何とか全世界に学びの機会を届けようとするATDのパッションにうたれ、私はすぐに申し込みをしたのである。
しかし内容が次第に明らかにされるに従い、私は講演内容を見て少し期待が外れた気持ちになっていった。なぜならコンテンツは、これまでに提供された録画セッションが大半なため、コロナショックで興味の対象が大きく変化した私にはあまり魅力的に映るものではなかったからだ。そんな思いを反映してか、通常は1万人を超えていた参加者数は、オンラインでは4500人程度だった。私は数万人の人が参加するのではと期待を持っていたが、少し残念に感じていた。
1つの救いは日本からの参加者が200名もいらっしゃったということである。米国の次に世界で2番目に多かった。これはICE(国際カンファレンス)への参加に匹敵するくらいの人数であり、日本のHRDの人たちのVirtual Conferenceへの関心が非常に高かったことを感じ取れた。
私がこの大会に参加して感じた気持ちは、詩人のマヤ・アンジェロウの言葉で最も端的に表すことができる。
I’ve learned that I still have a lot to learn.
- Maya Angelou (マヤ・アンジェロウ) -
(わたしにはまだ学ぶことが沢山あるということを、学んだのです。)
既に知っていると私が感じていたそのようなテーマのセッションにおいてさえも、実際にそのセッションに参加すると多くの気づきや感動に包まれたのだ。

スピーカーの人間性

なぜこんなに素晴らしい人たちを沢山揃えられたのかと思うくらい、話す内容が滲み入るようなスピーカーの人間性を強く感じた大会はこれまでになかった。オンラインなので、あたかも直接私自身に語っているように感じていたのかもしれない。語る言葉の1つひとつに力を感じ取り、感動の連続であった。
これが、ATDが私たちに感じ取って欲しいVirtual Learning Experienceだったのかと自分自身が体験できたのである。
基調講演者Keith Ferrazziについては、著書「一生モノの人脈力」で語られた戦略的なネットワーク作りが彼自身の成功の重要なピースになったことは確かだ。しかし、それ以上にチームの大切さ、共に成長するという概念が、彼の人間性に多大に影響を与えていることを、彼の話しぶりから十分に感じ取ることができた。
オンラインファシリテーションについての、“A Conversation With Bob Wiltfong” の 内容もとても秀逸だった。Bob Wiltfongは多くのトップ企業に20年以上もプレゼンの仕方を指導しているコンサルタントである。事前に彼の録画セッションも視聴して、さらにこの対話のセッションにも参加したところ、この人の素晴らしい生き方に触れて心が深い感動に包まれた。

プレゼンテーションのヒント

Wiltofong氏のセッションでは、オンラインセッションを行うための環境について、自分の部屋のビデオ配信環境を公開してくれた。どんなマイクを使い、照明をどう使うか、ウェブカメラの設定などについても、非常に興味深いヒントを沢山受けることができた。私は、マイクも数種類購入して試しているが、その中にWiltofong氏と同じマイクを使っているのが分かり、自分の選択が間違っていなかったと嬉しくなった。

基調講演者のNancy Drauteのセッションは、プレゼンテーションの観点から大変興味深いものだった。TEDで彼女のスピーチを、数年前から繰り返し見ていて、研修などでも紹介していた。著書である「スライドロジー」(BNN新社版)は、プレゼン手法の集大成のような本で、私は辞書的に参考にしている素晴らしい本である。

今回のセッションでは、ストーリーを効果的にプレゼンの中に組み込んでいく方法論が語られている。しかし彼女が調べ上げたDATA STORYの真髄に触れるには、やはりTEDのプレゼンも再視聴した方が理解が深まるであろう。デジタル二値的な抑揚とそのストーリー構成は、研究され尽くした素晴らしいフレームワークである。しかし私は、個人的にはその波は二値ではなく、アナログ的でストーリー全般を通して、時間軸で波の高さが違ってくると感じている。

 

UMUの記事『人事・採用担当者のプレゼン力』では、将来の企業の成長を支える優秀な人財の獲得という厳しい競争を勝てるかどうかを左右する重要な要素の一つであるプレゼン力について説明しているのでぜひ合わせてご覧ください。

デジタルワールドでのパフォーマンス向上

バーチャルカンファレンス前から着目していたセッションは、基調講演者Elica Dahwanの「デジタルボディランゲージ」という概念である。
コロナ禍により、オンライン中心のビジネス環境に置かれた私たちにとってはメリットも多くあるが、イノベーションや信頼などの低下という弊害に対しどう向き合うかは重要なポイントである。こんな時代だからこそ、デジタルボディランゲージという、人々のデジタル的なメッセージ行動にもっと着目すべきという内容であった。しかしそれは、私が期待していた内容とは少し異なっていた。
元々、この概念は10年以上前からマーケティングの分野で実装されている技術である。販売者は私たちがオンラインで買い物をするときに、常に私たちのデジタルボディランゲージデータを収集していて、次の購買行動へと誘ってきているのだ。私は概念を、オンラインラーニングのデザインとファシリテーションに生かすべきと考えている。そうでなければ、受講者固有の学習体験を特別なものにすることができないからである。今後、オンラインでの垂れ流しのコンテンツ配信形態から一歩脱却していくには、デジタルボディランゲージへの取り組みが非常に重要と考えている。

もう1つ着目したのは、バーチャルセリングのセッションである。リアルの商談に比べて、オンライン上で買い手の関心を引きつけ、クロージングするのは並みの技術ではできない。バーチャルセリングは、リアルの販売行動に比べて圧倒的に難しいのだけれど、逆に生産性が高く、意思決定を早く促すことができるなどの利点もある。そのために、デジタルプレゼンスなど、デジタルルーム内でのファシリテーションが重要な意味を持つ。それらはそのまま学びにも当てはまるし、本来セリングもトレーニングも相通じるものが多いと感じている。今後、ウィズコロナ環境においてはバーチャルセリングの技術が多くのセールスパーソンに必要なスキルとして必須になってくるであろう。そして学びの分野の専門家もそこからヒントを数多く学ぶことができると感じている。

やはり自分での体験が大切

この他にも、多くのインサイトに触れた経験は、今までの米国の大会で感じたものとは大きく異なっていた。結果的に、今回のバーチャルカンファレンスは私にとても合っていたのかもしれない。他の方々が報告してくれる概要を聞いてポイントを理解しても、結局自分がそのセッションを聞いて体験しないと大切なことを感じ取ることができないのではないか、大切な気づきが欠落してしまうのではないかと思った。
学習者体験(Learner Experience)はすなわち、その経験をしたものしか分からないのではないかと思うのである。
これらのことを踏まえ、冒頭のマヤ・アンジェロウの言葉を少し変えて、私の大会経験の結びのコメントとしよう。
I’ve learned that I still have a lot to experience, feel and learn.
(私は、自分自身が直接体験し、感じ取り、そして学ぶべきことがまだまだ沢山あるということを学びました。)
今後このような学びの機会に、このブログを読んでくださる人たちが、直接ご自分の目で見て、ご自分の耳で聞き、そしてご自分の心で感じ取る機会が沢山ありますようにと願っている。

浦山 昌志 

《プロフィール》
ユームテクノロジージャパン株式会社 取締役会長
株式会社IPイノベーションズ 代表取締役
ATDインターナショナルネットワークジャパン 理事
一般社団法人フューチャーラーナーズ協会理事
松下電器産業(現パナソニック)・日本理工医学部研究所・CSK(現SCSK)を経て、2003年IPイノベーションズを設立。 国内で初のシスコシステムズ認定教育の立上げや、LMSの先進導入等で、新規教育市場の開拓に従事。2016年1月、日本におけるUMU展開を開始。

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